何のために治療するのか

投稿者: | 2016-11-30

20日に放送されたNHKスペシャル「“がん治療革命”が始まった 」を観ました。

副題は「プレシジョン・メディシンの衝撃」。プレシジョン・メディシンは精密医療と訳すのだそうです。遺伝子解析を踏まえて分子標的薬を投与することで、従来の抗がん剤よりはるかに効く率が高まりそうだ、というもの。

NHKスペシャル | “がん治療革命”が始まった~プレシジョン・メディシンの衝撃~

進行した大腸がんを患う48歳の男性。4度にわたる再発を繰り返し、手術不能とされていた。しかし、ある薬の投与によって腫瘍が43%も縮小。職場への復帰を遂げた。投与された薬とは、なんと皮膚がんの一種、メラノーマの治療薬。今、こうした従来では考えられなかった投薬により劇的な効果をあげるケースが次々と報告されている。

がん患者(特に大腸がんや肺がん)や家族にとっては「福音」とも言うべきトーンで番組がつくられていました。登場する医師はこの治療法のメリットを語り、ナビゲイター役のがんサバイバー・原千晶も期待感を前面に出す。

確かによく効く治療法(それも副作用の比較的少ない治療法)が出てくれば、望みが出てくる人もあるでしょう。少しでも長く生きられるかもしれないわけですから。

一方で、それに期待しすぎ、のめり込みすぎると、生きるために治療するというより治療するために生きているような感じになってしまうのではないかな、と冷めた感想を持ったのも事実です。番組があまりに肯定的なトーンでつくられていたので、こちらがそれを補う感じになったのかもしれません。「乗せられないぞ」と。

何のために治療を追求するのか。ひいては、何のために生きるのか。これに対する確固たる答えを持たないと、結局「少しでも長く生きられれば良い」という風になってしまう気がしてなりません。治療法の進歩は、それ自体としては望ましいことでしょう。ただそれが患者の幸せや生の質の向上につながるかは疑問です。とりわけ患者にしっかりした死生観や人生観がなければ、医療に翻弄されてしまう危険性が高そうです。

番組に登場してくれた患者さんたちの勇気には感謝したいですが、治療に固執するその姿に薄気味の悪いものを覚えたのも事実です。もちろん、カメラに映っていないところで悩んだり別の人生を生きていたりすることもあるのでしょうけど、あまりにも「治療に希望を託す患者」として描かれていたので。

この辺、がん医療に携わる医師や看護師の感想を聞いてみたいところです。仮に自分ががんになった時、こういうのに前のめりな医師だと考え方が合わないような気がします。「治療の方法があるのに試みないのはバカだ」みたいな考え方だと。

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