電子書籍の進む先は

投稿者: | 2011-09-15

去年は「電子書籍元年」なんて騒がれましたけど、我が国では必ずしも爆発的な普及につながっていません。

そんなこんなで、最近はこのブログでも話題にすることがなくなっていました。相変わらず、情報収集は続けているんですけどね。その「網」に掛かったのが、こちらの記事。

元グーグル日本社長の村上憲郎氏が、電子書籍の未来について、とても魅力的な(そして、私も共感する)ビジョンを描いておられます。

電子書籍は「紙の本の電子読み」を超える 情報の「連係」でメディアは激変する :日本経済新聞

辞書機能と検索機能に垣間見えているのは、書籍の「連係」の姿である。Kindleの辞書機能は、「今読んでいる本」と「辞書」という、2つの本の連係にすぎないが、検索機能が示唆しているのは、来るべき本来の電子書籍が持つであろう、複数の、そして最終的には、全ての本との連係の可能性である。

その連係が拡大するにつれて、ノンフィクション本における引用・脚注・巻末の参考文献リストの形態が、激変するはずだ。著者は、そのような新しい機能・形態を前提として、電子書籍を書き始めるであろう。その時、紙の本の終わりが始まるのだ。なぜなら、そのような機能と形態を手に入れた著者たちは、徐々に紙の本を書かなくなるからである。

そして、その連係は、図・写真、さらには動画に及び、ついには、著者自ら、あるいは、専門のレクチャラー(解説者)が動画に登場して、図・写真・動画を使いながら、解説を始めるに至るであろう。紙の本を含む他の書籍への導線を引くことも可能だ。

ついに、電子書籍は、読むだけのものでなく、観るもの、聞くものとなるであろう。「読者(と引き続き呼んでおこう)」は、今「読んでいる」電子書籍の薦める導線を辿(たど)るだけでなく、自らも積極的に関連電子書籍や図・写真・動画を検索し、渡り歩くであろう。

「もはや電子”書籍”ではない」って感じですよね。ただこうした方向への進化は、必然と考えます。誰かがやらなくても別の誰かがやるでしょうし、そうすれば既存の「本」は、古ぼけた、魅力のないものと見なされるようになるでしょう。

そして上記引用にあるように、メディアとしての変化が、作り手の姿勢を変える、という点も重要です。上記のような「電子書籍」を書く人には、今とは違ったスキルが要求されるようになります。文章のうまさもさることながら、素材を見つける力、それを料理する力、そして分かりやすくしかも魅力的に伝える力。一部はすでに、アルファブロガーとなった人たちが垣間見せてくれている能力です。

上記に付け加えれば、「読み手」へのパワーシフトも重要な点です。読み手は単なる受け手ではなく、ソーシャルメディア等を通じて著者に物言う存在となります。また、別の人たちにおすすめしたり、逆に悪評を広めたりして、「売れ行き」を左右する存在ともなるでしょう。このことは、これまで以上に書き手は読み手のフィードバックに敏感にならざるを得ない、ということを意味します。そして何より、価格決定の主導権も、売り手から買い手にシフトするでしょう。どこまで行くかは、私もまだ見通せませんが。

いずれにしろ、こうしたことが一種の知的生産性爆発のようなものを引き起こす可能性は高いです。電子書籍について、紙の本をデジタルに置き換えたもの、程度にしか思っていない人は、認識不足なんてものじゃないですよ。

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