出生前診断と「命の選別」

投稿者: | 2012-09-04

出生前診断をめぐる議論、そして報道が、活発化してきました。

妊婦の血液でダウン症診断 5施設で9月以降導入 中絶大幅増の懸念も – MSN産経ニュース

妊婦の血液を調べるだけで、胎児にダウン症などの染色体異常があるかどうかがほぼ確実に分かる新しい出生前診断を、国立成育医療研究センター(東京)や昭和大(同)が9月にも導入する方針であることが29日、分かった。

新しい診断法は、妊婦の腹部に細い針を刺す「羊水穿(せん)刺(し)」で羊水を採取する従来の方法に比べて安全にできるが、簡単な検査のため、異常が発見された際の人工妊娠中絶が大幅に増える懸念もある。米国では昨年から実施されており、国内にも導入の動きがあったことなどから、日本産科婦人科学会は生命の尊厳を尊重したルール作りが必要と判断。専門医やカウンセラーなど体制が整備された医療機関で先行的に行い、検討する必要があるとした。

導入を検討している病院の医師らは31日に研究組織を立ち上げ、検査を行う際の共通のルールを作る。

ほかに東京慈恵会医大、東大、横浜市立大などで導入を検討。高齢出産だったり、以前にダウン症の子供を出産していたりするなど、染色体異常のリスクが高い妊婦で検査希望者が対象になる。保険がきかず、費用は20万円程度になる。

費用は決して小さな負担ではありませんが、母体への負担は従前より格段に小さいだけに、「検査を受ける人が増える→中絶が増える」というのは大いにあり得るシナリオでしょう。ダウン症関係者の団体はもとより、日本産科婦人科学会も声明を出し、「安易」な利用を戒めています。

他方で、妊婦や家族の「知りたい」「確かめたい」という気持ちにも一定の理があるのは、言うまでもありません。技術的に知ることが可能ならそれを利用したいと思うのは自然の人情ですし、もし検査を非常にハードルの高いものとしてしまうなら、検査を受けることで避け得るリスクや困難を誰が引き受けるというのでしょうか。

ゲノムの研究が進むと、いずれはダウン症リスクのみならず、広範な疾病リスクを出生前に診断できるようになるかもしれません。ある主の「命の選別」が進む社会は、不可避だと思います。技術的に可能となったことを禁じるのは不可能ですから。他方で、また「やりたい人は何でもオーケー」という風に野放図に解禁するのも危ういでしょう。我々の進む道はその間にある「節度ある利用」ということになるんでしょうが、その節度の線引きが立場により価値観によりまちまちだという・・・。そんな中で、社会のルールをどのように作っていけば良いのでしょうか。

今回の出生前診断は、これから我々が直面する深く重たい倫理的テーマの第一歩となりそうです。一人でも多くの人がこの問題に関心を持ち、広く議論すべきでしょうね。

折しも、16日放送の「NHKスペシャル」がこのテーマを取り上げます。老若男女問わず、必見かと。

NHKスペシャル|命をめぐる決断~進む出生前診断 そのとき家族は~(仮)

いまという時代に障害のある子どもを授かることとは。 親とは、家族とは、命とは何なのか。科学技術の進歩で、妊娠・出産に関わる全ての家族が突きつけられることになった「命の選択」。大阪の出生前診断専門のクリニックを舞台に、命を巡る家族の葛藤と、その意味を見つめる。

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