「モリー先生との火曜日」

投稿者: | 2006-01-16

遅ればせながら、「モリー先生との火曜日」を読了しました。涙を流すことこそありませんでしたが、深い感銘を受けました。一生大切にしたい本となりそうです。


この作品、現役スポーツライターのミッチ・アルボムによるノンフィクションです。彼はふとしたことから大学時代の恩師モリー・シュワルツが不治の病に冒されていることを知り、卒業以来10数年ぶりに師を訪ねます。そして旧交を温めた二人は週に一度(火曜日に)人生の様々なテーマについて語り合います。いわばモリー先生によるマンツーマンの最終講義というわけです。

二人の対話の中で一番印象に残ったのは、モリーが繰り返し愛すること、人のために尽くすことの大事さを説いていることです。

多くの人が無意味な人生を抱えて歩き回っている。自分では大事なことのように思ってあれこれ忙しげに立ち働いているけれども、実は半分ねているようなものだ。まちがったものを追いかけているからそうなる。人生に意味を与える道は、人を愛すること、自分の周囲の社会のために尽くすこと、自分に目的と意味を与えてくれるものを創りだすこと。

そして言います。「互いに愛せよ。さなくば滅びあるのみ。」

モリーは迫り来る死を受容しているように見えます。その強さ、そして明るさには頭が下がります。そんな彼だからこそ、家族や精神的なものの大事さと、その反面の現代アメリカ文化の虚飾性を鋭く見抜くことができるのでしょう。人生の質を改善してくれない文化などこちらから捨ててしまえ、と何度も言っています。

この本のもう一つの大きなテーマ、それは教師と生徒の心の交流です。また、老いた師がありったけの知恵を後進に伝えようとするという普遍的なパターンの物語でもあります。古くはソクラテスや漱石の「こころ」などもそうです。我が国の大学にここまで濃密な師弟の交流があるでしょうか。ちょっと羨ましい気もします。

なお、この本は映画化されています。実は私はその方を先にDVDで観ました。ただ映画の方は筆者の恋愛問題が強調されすぎていたり、対話の内容が簡略化されすぎていたりと、原作とはかなり趣の違うものになってしまっています。よくあることですが。

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