なぜ遺言しないのか

投稿者: | 2008-10-22

我が国で毎年亡くなる方のうち、遺言を遺している人はどれくらいいるのでしょうか。

死亡者数については、もちろん政府の統計があります。厚生労働省が発表する人口動態統計。それによれば、死亡数は2003年に100万人を突破したあとも増え続けており、昨年2007年は110万8千人でした。

一方、遺言を遺して亡くなった人の数は、正確にはわかりません。推計の傍証となるデータとしては、

1)2007年度末時点の信託銀行による遺言書保管件数が6万件余
2)2005年の遺言公正証書の作成件数が約6万9千件
3)2006年の家庭裁判所の自筆証書遺言検認件数が約1万2千件

といった感じです。1)は遺言を信託銀行に預けている存命中の人、2)が新たに遺言をつくった人です。検認を経ない自筆証書遺言は統計上「暗数」となりますが、それを見積もっても、遺言を遺して亡くなる方はせいぜい10万人。死亡者数の1割にも満たないと思われます。

では、なぜ多くの人は遺言をしないのでしょうか。

私なりに理由の仮説を考えてみました。

仮説1 家族への信頼感
自分が遺言なんてしなくても、自分がいなくなった後のことは、家族がいいようにやってくれるだろう。あえて遺言などする必要がない。という心理です。

仮説2 「死」の観念の忌避
我が国には死について考えたり口にすることを「縁起が悪い」と言って忌む風潮があります。遺言はまさに「自分の死」を前提にした備えですから、これも「縁起が悪い」とされてしまうおそれはあります。

仮説3 手続き等が億劫
遺言をつくるにはそれなりに手間がかかります。また、一般の人にとって法律の世界はそれほど身近なものではない。そうしたことから、遺言作成に対して億劫な気持ちを持ってしまうのは仕方がないことかもしれません。

仮説1から3まで挙げましたが、遺言をつくらない人には多かれ少なかれこれらの心理がみんなあって、互いに因となり果となり、「遺言しない自分」を正当化する方向にはたらくのでしょう。いやそもそも、我が国には遺言文化といったものがないので、多くの人は遺言をつくろうかどうしようかなどど考えることもなく、あの世へ旅立たれているのかもしれません。

もちろん私は遺言文化の定着を目指している者です。遺言づくりから逃避している人、あるいはそもそも遺言をつくろうとも思わない人に、どう遺言づくりを勧めるか。

アプローチは2つあるでしょう。

  • 遺言のメリットを訴える
  • 遺言をつくらないマイナスやリスクでもって脅す

一般には、後者の方が使われています。相続トラブルとか、遺産分割の手間とか。もちろんそれも結構ですが、私は前者に重きを置きたい。詳しくは、またの機会に。

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