番組の存在自体をご存じない方もいると思いますので、紹介を兼ねて記事にしておきます。
水曜の午後10時から(再放送は翌水曜の早朝)Eテレで放送されているのが、「100分 de 名著」です。25分間の番組で月に4回、一冊の名著を取り上げる。それで「100分」というわけです。
この番組で、今月8月は「夜と霧」が取り上げられています。8月は第二次大戦にちなんだ番組が多くつくられますので、これもその一環と言えるかもしれません。
運命に打ちのめされたという人、将来に希望が持てないという人が、世の中にあふれています。そこで8月のシリーズでは、人間の生きがいとは何かを追求した名著「夜と霧」を取り上げることにしました。
「夜と霧」の著者は、強制収容所から奇跡的な生還を果たしたユダヤ人のヴィクトール・フランクルです。精神科医だったフランクルは、冷静な視点で収容所での出来事を記録するとともに、過酷な環境の中、囚人たちが何に絶望したか、何に希望を見い出したかを克明に記しました。
フランクルの「夜と霧」は、まさに人類史に残る名著の一つと言えるでしょう。強制収容所という極限の状況で垣間見られた、人間というものの「現実」。彼自身がそこを生き延びた人だけに、まさに生々しいドキュメントとなっています。同時に、日常を生きる我々に対して心強いメッセージをくれる書でもあります。
先週放送された第1回「絶望の中で見つけた希望」では、震災後の日本人、という視点が強調されていました。確かにそれも一つの立ち位置とは思いますが、2人に1ががんになる時代、さらには社会が高齢化し、「老い」や「死」が従来より身近になる時代だからこそ、「夜と霧」を読もう、といった考え方の方が多くの人の心に響く気がします。
私の見るところ、この「夜と霧」とキューブラー・ロスの「死ぬ瞬間」は、生と死について考えようとする現代人にとって必読の書です。あとは、吉田兼好の「徒然草」、モンテーニュの「エセー」、セネカの「人生の短さについて」といった近代以前の文人たちの考察にみっちり触れておくべきかと。
ちなみにこの「夜と霧」。旧訳と新訳があるんですよね。旧訳の方は1947年に出版された初版本をもとに1956年に訳出(霜山徳爾)され、新訳の方は1977年に出版された改訂版を元に池田香代子氏が2002年に翻訳したものです。私の本棚にあるのは前者です。この機会に、後者も読んで見る必要がありますね。