「死を願望するものは惨めであるが、死を恐れるものはもっと惨めである。」 神聖ローマ皇帝ハインリヒ四世の言葉です。
ハインリヒ四世というと名高い「カノッサの屈辱」の一方の主人公です。グレゴリウス七世などの教皇と対峙し、いわゆる聖職叙任権闘争を繰り広げた大政治家です。この人にしてこの強き言葉あり、という感じを受けます。
「死を願望するもの」とは、文字通り「早く死にたい」「今すぐ死にたい」と望む者のことでしょう。現代日本の我々なら自殺したがっている人を連想しますが、ハインリヒ四世はれっきとしたカトリック教徒ですから、必ずしもそういうことではなさそうです。
「死を恐れるもの」には二通りありそうです。まず、死ぬことが恐くて死について考えてばかりいる者。こちらはわかりやすいですね。そしてもう一つ。死が恐いので死という想念をできるだけ遠ざけようとしている者。こちらは場合によっては死を恐れているという自覚がないでしょうから、ある意味前者より深刻かもしれません。
あるべき態度というのは、「自分がいつかは死ぬということを冷静に受け止め、その分、生きている間だけは生を大事にする」ということなのでしょう、きっと。死を願望したり恐れたりする者は、生そのものを満喫することができない。だからこそ、「惨め」ということになるのだと思います。