徳永進医師の「死の文化を豊かに」を読みました。
筆者の意見に100%賛成というわけではありません。また、医療の臨床経験などない私にはピンと来ない箇所もいくつかありました。それでも、この本は素晴らしいです。大いにお薦めいたします。
さて、この本のタイトルでありテーマである「死の文化を豊かに」について。前提として、現代の日本は死の文化が貧しい、ということがあります。そういえば、がん専門医である中川恵一医師も「死を忘れた日本人」という本を書いておられます。終末期医療に携わっている方に共通する実感のようです。
死の文化が貧しい、とはどういうことでしょうか。私なりにまとめると、こんな様相です。
- 人々の生活から「死」が隠蔽されている
- 死にゆく人が、死と向き合うのが難しくなっている
- 上記の結果、生が皮相で上滑りなものとなっている
つまるところ、生を謳歌するために死から目を背けているばかりに、結果として生そのものがつまらないものになっているではないか、ということのようです。死の文化を豊かにするといっても、単純に過去に回帰するというのは無理だと思います。旧来の文化を参照しつつも、新たな文化を創っていくしかないのでしょう。それがどんなものになるか、は別途論じるとして、「生」に傾きすぎた比重を少しだけ「死」の方へ戻すことが必要なんじゃないか、ということは確認しておきたいものです。
個人的には、戦後の生命至上主義みたいなものも、悪影響を及ぼしたと見ています。それは戦争で多くの人が死んでいったことへの反省や後悔から来ている面もあるでしょうから、仕方のない面もあります。ただそろそろ、相対化する時期が来たのではないでしょうか。ちょうど団塊の世代が高齢者の仲間入りをする時が近づいています。「死の文化を豊かに」は、国民的な課題と言っていいでしょう。